JAMES CHANCE & TERMINAL CITY/GET DOWN AND DIRTY!(ジェームス・チャンス&ターミナル・シティー/ゲット・ダウン・アンド・ダーティー!) Vinyl Diary
『GET DOWN AND DIRTY!』『 GET DOWN AND DIRTY!』は2005年リリース、『Melt Yourself Down』以来およそ20年ぶり、ターミナル・シティ(TERMINAL CITY)と共に録音された日本限定の発売。
ジェームス・チャンス(James Chance ジェームス・ホワイト名義も使用)は、1953年4月20日ウィスコンシン州ミルウォーキー生まれ。アメリカ出身のサクソフォーン奏者、作曲家、歌手、ピアニスト。ウィスコンシン音楽院を中退した後、1976年にニューヨークに移る。ティーンエイジ・ジーザス・アンド・ジャークスを経てファンク+フリー・ジャズ・バンド”ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ”を結成。1978年、ブライアン・イーノ、プロデュース、ノー・ウェイヴのコンピレーション・アルバム「ノー・ニューヨーク』に参加。
James Chance & The Contortions名義の『Buy』とJAMES WHITE & THE BLACKS名義の『Off White』は同年のリリースである。レーベル”ZE RECORDS”のオーナー、マイケル・ジルカによると、当初からディスコ路線をレーベルは目指しており、コントーションズはディスコにしては速すぎだった。そこで彼らはバンド名を変えただけの新バンド、ジェームス・ホワイト・アンド・ザ・ブラックスを作りあげることにした、という。結果、「このバンドはアイロニーをもってディスコと向き合い、獰猛な音楽と合体させた恐るべき才能」と語っている。またジルカは同じ年にリリースされたコントーションズの『BUY』を「史上最もタフで、最も非妥協的なパンク・バンドによる傑作」と評している。
ジェームスは2つの名前を使い、複数のバンドで活動してきた。そのためディスコグラフィーも複雑である。現在はチャンスの名前で活躍を続けている。
Discography
James Chance & The Contortions
1979年『Buy』(ZE)
1980年『Paris 1980 Live Aux Bains Douches』
1981年『Live in New York 』
1991年『Soul Exorcism』
1995年Lost Chance』(ROIR)
1996年『Molotov Cocktail Lounge』(Enemy / Zebralution)
2011年『Incorrigible! 』
2016年『The Flesh is Weak』
James White & The Blacks
1979年『 Off White』 (ZE-Buddah)
1979年 『Contort Yourself EP』
1982年「Sax Maniac』 (Animal
1986年『Melt Yourself Down』(Selfish Records 日本限定)
James Chance (with Pill Factory)
1979年『Theme from Grutzi Elvis』(ZE) ※EP 映画『Grutzi Elvis』
James White The Flaming Demonics
1983年『The Flaming Demonics』(ZE)
James Chance & Terminal City
2005年 『Get Down And Dirty!』(wind bell)
2010年『The Fix is In』(decade 01 / Interbang)
Solo
2005年『James Chance – Chance of A Lifetime: Live in Chicago 2003』(RUNT)
2005年 書籍『JAMES CHANCEとポストNYパンク』出版
2024年6月18日逝去、享年71歳
『GET DOWN AND DIRTY!』TRrack List
1. Down And Dirty 、2. The Street With No Name、 3. Blonde Ice 、4. The Fix Is In 、5. Devilish Angel 、6. Another Pompadour 、7. Chance’s Mood 、8. Lotus Blossom、 9. The Set Up、10. Leave My Girl Alone
Personnel
James Chance – Saxophone [Alto], Lead Vocals, Piano,Piano [Acoustic] ,Producer、Simon Chardiet – Guitar、 Dave Hofstra, Erik Klaasstad – Bass [Acoustic] 、Robert Aaron – Organ、 Robert Aaron – Piano [Acoustic] ,Saxophone [Tenor] 、 Mac Collehan – Trumpet、A. J. Mantas – Vibraphone 、Richard Dworkin – Drums 、Michael Zilkha – Executive Producer
内包されたライナーにチャンス自身のペンによる覚え書きがあるので、そこから引用したい。
本作はチャンスの頭にあった2つのアイデアを具現化したものである。そのひとつはもちろん音楽的なことで、それは“コントーションズ“〜“ブラックス“でファンクに加えた独特のひねりをジャズや初期のリズム・アンド・ブルースというフォーマットで試みた、ということ。つまり、1940年代後期から’50年代前期のワイノニー・ハリスやジェイ・ホーキンスの歌唱を、モンク、エリントン、ミンガスらのジャズの作曲家たちの、より高度な和音や複雑な感情表現と混ぜ合わせることにトライした、というのだ。このことは、これまでのあまりにも縛りの無い奔放な作品作りと較べているにも関わらず、チャンスにとってとても解放的なことであり、爽快であったと述懐している。
もうひとつは彼の偏愛するフィルム・ノワールについてである。本作には映画のタイトルと同名のナンバーが3曲収録されている。2. The Street With No Name、3. Blonde Ice、9. The Set Up であり、40年代後半に製作された映画である。(あまりにもぞんざいに)フィルム・ノワールと呼ばれるこれらの作品は単なるスタイルではなく、もっと深い意味を持つものものであり、活気も感情も無いこの世の中より、ずっとリアルで真実なものだ、とチャンスは語る。本作はこういった映像作品へのオマージュでもあるようだ。
そして最後に最愛の奥方、ジュディ・テイラーに捧げたい、と記されている。(5. Devilish Angel は彼女のことを歌った曲) 因みにライナーの翻訳は中川五郎氏。ブコウスキーの作品の翻訳を手掛けられていることで記憶していた。この訳文も簡潔明瞭で名文である。8. Lotus Blossom、10. Leave My Girl Alone の2曲以外は全てチャンスのオリジナル。7. Chance’s Mood のみテナー・サックス、オルガンのロバート・アーロンとの共作。
1. Down And Dirty
オープニング・ナンバーはジャズのマイナー・ブルース。これまでのチャンスを大きく裏切る歌唱で、しっかりしたメロディがあり、丁寧に歌っている。ベース、ドラム、ギターがコードを刻む。ヴィヴラフォン、ピアノ、サックスが2本。チャンス自身が弾くピアノと1本のサックスのみ、ややフリーキーなプレーだが、全体的には均整が取れており、聴きやすい。
2. The Street With No Name
ロッカ・バラード風のスロー・ナンバー。以前と変わらず若々しいチャンスの歌は、相変わらずヘタウマで、そこはこの曲の雰囲気に合っている。トランペットとサックスがムードを盛り上げている。
3. Blonde Ice
オルガンとピアノ、ヴィヴラフォンという意外な組み合わせのイントロで、メロウなナンバー。これもチャンスの自作のジャズ。テーマ・メロディが印象的。チャンスのサックスが表情豊かに良く歌っている。フレーズは逸脱せず、フォーマットの中に収まっている。
4. The Fix Is In
ノワールな雰囲気漂うシンプルなリフがイカした、グルービーなナンバー。派手なホーンとオルガンが良い。この曲でのチャンスは、かつての荒々しい姿が少し蘇っているようで微笑ましい。ヘタだけど味があるヴォーカルだ。
5. Devilish Angel
ドラムが控えめで代わりにコンガとボンゴが入っており、これがかなり効果的でヴィヴラフォン、太く柔らかいウッド・ベースととても合っている。コントーションズ時代のギタリスト、パット・プレイスがスライド・ギターで参加、華を添えている。奥様への愛を歌っている。
6. Another Pompadour
古き良き時代のジャズを聴いているような充実した演奏。ヴォーカルは入っていない。聴かせどころで4バースも用意してある。テーマ・メロディも良いし、ソリストが自分の持ち味を出して、実に聴き応えのある1曲。
7. Chance’s Mood
一転、この曲ではオルガン×サックスの構図。時に逸脱しつつも、リリカルなサックスを披露している。
8. Lotus Blossom
ここでのチャンスはピアノ・トリオをバックにヴォーカルを披露していて、この雰囲気も良い。チャンスは敬愛するシンガー、ジョニー・レイのヴァージョンを参考にしているようだ。サックス・ソロはロバート・アーロンか。
9. The Set Up
この曲もピアノ・トリオ+ヴォーカルというフォーマット。ソロのオルガンはチャンスが弾いている。間で入るサックスもおそらくチャンス。時々トリッキーな音を出すが、意外と(失礼)歌心のあるプレー。
10. Leave My Girl Alone
クロージング・ナンバーは、ややアップ・テンポなR&B。ここではチャンスとアーロンのサックスが激しく交流し、お互いに火花散るブロウを展開している。
ラウンジ・リザーズ(ジョン・ルーリー)やジョン・ゾーン、キップ・ハンラハン辺りがすきな人にも聴いてもらいたい一枚である。
ロッコ :本ブログVINYL DIARY(ビニール・ダイアリー)主催。レコードのことをビニール(又はヴァイナル)と呼ぶことから、この名称に。これまで少しずつ収集してきたロック、ジャズのアナログ盤、CDのレヴューを細く永く日記のように綴っていきたいと思っている。 またH・ペレットの雅号で画家としての顔も持つ(過去、絵画コンクールにて複数回の入選、受賞歴あり)ここ最近は主にミュージシャンの絵を描いている。(ジョニー・サンダース、キース・リチャーズ、トム・ウェイツ、ジェームス・チャンス他)絵画に興味ある方はご覧ください。