TOM WAITS / CLOSING TIME(トム・ウェイツ / クロージング・タイム) Vinyl Diary

『CLOSING TIME』
1973年リリース。トム・ウェイツ24歳の時の記念すべきデビュー・アルバム。
トム・ウェイツ(Tom Waits、本名:Thomas Alan Waits、1949年12月7日生まれ)は、アメリカカリフォルニア出身のシンガーソングライター、俳優。1970年代初頭にロサンゼルスのクラブで歌うようになる。1971年、初のデモ・テープを制作。(この時の音源は、1990年代にコンピレーション・アルバム『Early Years Vol.1』(1991年)『同 Vol.2』(1993年)として世に出る)
〜アサイラム・レコード期〜 1972年、アサイラム・レコードと契約し、1973年にアルバム『Closing Time 』でデビュー。商業的には成功しなかったが、同作収録曲「オール55」をイーグルスがカヴァーして話題となった。1974年、ジャズ色を強めた2ndアルバム『The Heart Of Saturday Night』リリース。1975年、ライブ・アルバム『Nighthawks At The Diner』リリース。1976年、初のヨーロッパ・ツアーと3thアルバム『Small Change』で初めて全米アルバム・チャートのトップ100にランク・イン(最高位89位)。1977年1月には初の日本ツアーを行う。同年4hアルバム『Foreign Affairs 異国の出来事』リリース。ベット・ミドラーとのデュエットを披露した。1978年3月には、二度目の日本公演を行う。同年5thアルバム『Blue Valentine 』リリース。また、映画『パラダイス・アレイ』で俳優デビューを果たす。1980年、ピアノよりもギターを全面に出した6thアルバム『Heartattack and Vine』をリリース。この年、以後長きに渡ってトムの盟友となるベーシスト、グレッグ・コーエン、妻となるキャスリーン・ブレナン、映画監督のフランシス・フォード・コッポラらと出会う。1982年、トムが初めて音楽を担当した映画作品『One From The Heart』(監督:フランシス・フォード・コッポラ)公開。(トムは俳優としても端役で出演)クリスタル・ゲイルとの連名による同名のサウンド・トラック・アルバムはアカデミー編曲・歌曲賞にノミネートされた。1985年、ベスト盤 『Anthology』リリース。
〜アイランド・レコード期〜 1983年、実験的な音作りの7thアルバム『Swordfishtrombones 』リリース。1985年8thアルバム『Rain Dogs』キース・リチャーズの参加が話題となった。(翌年ウェイツはストーンズのアルバム『Dirty Work』に参加した)1986年、初主演映画『Down By Law』公開。1987年9thアルバム『Franks Wild Years』リリース。アルバムに伴うツアーの模様は録音・録画され、1988年、ライブ・アルバム『Big Time』及び同名ドキュメンタリー映画として発表された。1992年、再びリチャーズと共演した10thアルバム『Bone Machine』で、最優秀オルタナティヴ・レコード賞を受賞。1993年、トムが音楽を担当したミュージカル11thアルバム『The Black Rider』 リリース。
〜アンタイ・レコード期〜 1999年、アンタイ・レコードに移籍、12thアルバム 『Mule Variations 』は初めて全米トップ40入りを果たし、ノルウェーのアルバム・チャートでは1位を獲得した。同作はグラミー賞のベスト・コンテンポラリー・フォーク・アルバム部門を受賞。2002年、13thアルバム『 Blood Money』 、14thアルバム『Alice』 (両方とも、トムとキャスリーンが関わったミュージカルの楽曲を再録音したもの)を同日にリリース。2004年、15thアルバム『Real Gone 』は、ピアノを一切使わないという新境地を見せた。2006年、アルバム未収録だった楽曲と新曲を合計54曲収録した3枚組CD16thアルバム 『Orphans: Brawlers, Bawlers & Bastards 』リリース。2009年ライブ・アルバム『Glitter and Doom Live』リリース。2011年、新録音のスタジオ・アルバムとしては7年振りの作品17thアルバム『Bad as Me 』 リリース。久しぶりのキース・リチャーズの参加を得た同作でデビュー以来初の全米トップ10入りを果たし、ノルウェーでは自身にとって2度目のアルバム・チャート1位獲得を果たした。2018年書籍『トム・ウェイツが語るトム・ウェイツ』出版。
『CLOSING TIME』
Track List
1. “Ol’ ’55″、2. “I Hope That I Don’t Fall in Love With You”、3. “Virginia Avenue”、4. “Old Shoes (& Picture Postcards)”、5. “Midnight Lullaby”、6. “Martha”、7. “Rosie”、8. “Lonely”、9. “Ice Cream Man”、10. “Little Trip to Heaven (On the Wings of Your Love)”、11. “Grapefruit Moon”、12. ““Closing Time”
Personnel Are
トム・ウェイツ – ボーカル、ピアノ、チェレスタ、ギター、デルバート・ベネット – トランペット、トニー・テラン – トランペット、シェップ・クック – ギター、バッキング・ボーカル、ピーター・クライムス – ギター、ビル・プラマー – ベース、アウルニ・エギルソン – ベース、ジョン・サイター – ドラムス、バッキング・ボーカル、ジェシ・エールリッヒ – チェロ
2025年の年明け、映画館でフランシス・フォード・コッポラの古い作品を上映していたので観に行った。「アウトサイダー」(83)の4Kリマスターである。この作品の中で、バーのオーナー役で出演していたのがなんとトム・ウェイツだった。コッポラ監督とウェイツの繋がりは映画「ワン・フロム・ザ・ハート」(82)のサントラの時からだと思うのただが、「アウトサイダー」にチョイ役とはいえ、出演していたのは嬉しい驚きだった。
思えば、トム・ウェイツとの出会いは映画「ダウン・バイ・ロー」(86)だったと思う。クセつよな元DJの囚人の役である。ウェイツは主役の1人であり、サントラも担当していた。この作品をDVDで観て後、僕が最初に買ったウェイツのレコードが『スモール・チェンジ』だ。これを選んだ理由は、単純にジャケットがカッコよかったからである。そして、もっとこのミュージシャンのことを知りたいと思い、次に購入したのが『ボーン・マシーン』。これを選んだ理由はキース・リチャーズが参加しているから、というこれも非常に単純な理由からである。
それからトム・ウェイツの作品を可能な限り集めた。どのアルバムも素晴らしいものばかりだった。
本作はトム・ウェイツ24歳のデビュー・アルバムである。カバー写真で分かるように24歳にしては老成した雰囲気である。ライナーノーツによると、なんでも家庭の事情で15歳の頃には飲食店で深夜から朝方まで雑用などをしていたらしい。なるほど、酸いも甘いも充分に噛み締めたようなルックスである。
アルバムは、デビューまでにウェイツが書き溜めた曲を一息にレコーディングしたものと思う。弾けるような若さ、派手さはまるで皆無、だが、どの曲も繰り返し聴きたくなる良い曲である。
バンドはドラム、ベース、ギター、トランペット、そしてウェイツ本人のピアノ(ギターも)。特に誰かが目立つということもなく、堅実でオーソドックスな演奏のバンドである。曲はジャジー、カントリーフレイバー、ブルージーな曲と路線が定まっていない感じはあるが、逆にそこがこのアルバムの魅力かもしれない。
“Ol’ ’55”
消え入りそうなウェイツのカウントとピアノで始まるオープニング・ナンバー。カントリーっぽさとブルースっぽさを併せ持ったシティ・ポップスといった雰囲気。本作リリース後の74年、イーグルスがアルバム『オン・ザ・ボーダー』でカヴァーしたことでも注目を集めた曲である。サビ部分のメロディー、ハモりが切なく美しく、イーグルスが気に入るのも納得の名曲。
“I Hope That I Don’t Fall in Love With You”
朴訥とした爪弾き。小ぶりな、かなり使い込んでいると思われるアコースティック・ギターの枯れた音がとても良い。ギター(2本重ねているだろうか)と、シンプルにウッド・ベースだけをバックに歌われている。この曲もややカントリーフレイバー。
“Virginia Avenue”
ブルージーなメロディーのピアノとミュート・トランペット、気怠いウェイツのヴォーカルで一気にジャジーなモードに。シンプルな歌だけに多彩なフレーズのトランペットがとても際立っている。
“Old Shoes (& Picture Postcards)”
この曲はピアノレスで、バッキングのアコースティック・ギターと野太いドラムが印象的なゆったりとした大らかなナンバー。歌詞の切なさとは対照的に、サビのコーラスの効果もあって牧歌的な曲に仕上がっている。
“Midnight Lullaby”
この曲ではピアノが靄がかかったような、柔らかい音で、繊細なトランペットの音と上手くブレンドされている。スローではあるが、軽いタッチの、かなりジャズっぽい曲で、まだそんなに潰れていないウェイツの声が若々しい。
“Martha”
昔を懐かしんで、かつての恋人に電話をかける男、結婚した今もなお彼は、その元恋人を引きずっている、というなんとも切ないバラードで、26歳の新人ミュージシャンが作る歌とは到底思えない重さ(重いが美しいバラードである)。心なしかウェイツの声も他の曲に比べてシブい。ティム・バックリィ(ウェイツと同じマネージメント所属)が、1973年9月発売のアルバム『Sefronia』でカヴァーしており、こちらはさすがの美声で歌われている。
“Rosie”
“Ol’ ’55”同様、サビ部分のコーラスが非常に印象的で美しい曲。
“Lonely”
残響音の美しいピアノ。そのピアノだけをバックにウェイツが呟くように歌う。「ロンリー」というワードをこれでもかと連呼するシンプルな歌だが、これほどまでに聴き手を引き込むのは、かなりの芸当だと思う。
“Ice Cream Man”
マイナーのジャズを下敷きにした、本作では1番軽快でアップ・テンポでジャジーなナンバー。このハネた感じのリズムが良い。僕は君のアイスクリーム・マン」と、おどけた歌詞も楽しい。
“Little Trip to Heaven (On the Wings of Your Love)”
ウェイツの優しいヴォーカルに絶妙に呼応するミュート・トランペットが美しいスロー・ナンバー。「バナナのような月」とは三日月のことだろうか、因みにこのアルバムにはかなりの頻度で月が登場する。
“Grapefruit Moon”
前曲に続き、今度は「グレープフルーツのような月」と歌われるが、おそらく満月であろう。この曲では主軸のピアノに加えて、映画音楽のような華麗なストリングスが導入されて、ロマンティックに仕上がっている。
“Closing Time”
アルバム・ラストを飾るスローなインスト。柔らかいピアノの音とウッド・ベース、ミュート・トランペット、チェロが織りなす安らぎのナンバー。
ロッコ :本ブログVINYL DIARY(ビニール・ダイアリー)主催。レコードのことをビニール(又はヴァイナル)と呼ぶことから、この名称に。これまで少しずつ収集してきたロック、ジャズのアナログ盤、CDのレヴューを細く永く日記のように綴っていきたいと思っている。 またH・ペレットの雅号で画家としての顔も持つ(過去、複数回の入選、受賞歴あり)ここ最近は主にミュージシャンの絵を描いている。(ジョニー・サンダース、キース・リチャーズ、トム・ウェイツ他)絵画に興味ある方はご覧ください。